言い訳大作戦

14歳と15歳が必死に考えた、壮大な言い訳大作戦。

_____1_____

2年生の団長くんやら、チアリーダーの子やら2年の青組団のイケイケ系の子らが、7人位、来襲していた。
「彰二ーーーーぃぃ おーい!出てこいよう」などとやたら叫んでいる。俺は青ざめた。

「つーか打ち上げとかあったのかよ…2年生のくせに」
「あーまじスイマセン…」
「…お前さ、なんて言って今日抜け出してきたん?」
「…えーと、その」
「だから、どういう言い訳で抜けてきたん?」
「…『大事な人』と会う予定があるから今日はパス…て」

俺は頭を抱えた。この状況について、色々察してしまったからだ。

まだ知りあって一週間くらいなのに「大事な人」って言ってくれたその彰二の愛?に喜んだりするべきなのだろう。本来ならそうすべきなのだ。

もしくは例えば、俺が女子で図太い精神の持ち主なら彼らの前に姿を現し、公認カップル見届け人として彼らを利用もしただろう。

「えーやべー、まじーどーしよ、やべー…」
「…」
「なんでこんなことになってんだ…? …??」

完全に頭が回っていない彰二に俺は、ちょっと呆れた。

「徹平って2年の団長だろ?」
「そうっすけど…」
「アイツってバスケ部だろ?しかもずっとスポ少(スポーツ少年団)に所属してて」
「そうっすね…ハイ」
「…多分、千田先輩と知り合いじゃねーの?」
「…そうっす…2人ともめっちゃ仲良いです…小学校から…」

ようやく状況が飲み込めたようだ。
コイツは涼しげな顔してるくせに、全然こういう時頼りにならん奴だな…と思ったけど流石に色々把握したらしい。

千田先輩は小学校の時も中学校の時も地元のスポーツ少年団でも主将だった。
2年団長は、背はちっこくて千田くんと大差ないけど、結構優秀なバスケマンで2人はやはり知り合いのようだ。

コンビニに行った千田先輩と徹平くんが遭遇した。多分俺の予想だときっとこんな感じ…

「おー徹平じゃん…」
「あ!!千田先輩!!お久しぶりっす!!(※徹平くんは顔も性格も太陽みたいに明るい)」

「あれー、なんかいっぱい人いるな?打ち上げ?」
「そーなんすよーー彰二の奴はなんか人と会うとか言ってこなかったんすよー…!!」
「へー。彰二は打ち上げ後日になったとか言ってたのにな。今いるよ俺の家に」
「え、マジっすか⁉︎⁈ サボりかよ!?アイツ…ッッ」

ってことだと思う。と彰二に説明したら、それしかないって顔をしている。
部屋にはようやくクーラーが効き始め、室内はキンキンに冷えていた。

3回戦をやろうとしていた時はまだ2人ともビンビンだったのに、今は流石に平常モードに戻っていたw






_____2_____

部屋の姿見鏡は、全裸でかくれんぼをして、同じ場所に逃げ込んでいるかのような状況の男2人を映している。

「まず服着るぞ」
「おっす!」

千田先輩が「ごゆっくりー」って言ってたのが気になった。
考えられるパターンは3種類だ。

⑴ 徹平君らに家に居るとだけ伝え、「誰かと一緒にいた」という事は言っていない
⑵ 徹平君らに彰二と一緒にいた人間がいたがそれが「誰」であるとまでは伝えてない
⑶ 徹平君らに一緒にいたのが「俺」と伝えている

「ちょっと、そこ座れ」
「…ハイ!」

服を完全に着終わった彰二が、畳の上にシャキっと正座した。
相変わらず、俺に従順で可愛いと思ってしまったが、そんな状況じゃない汗

「6、7人くらい居るけど、誰に言い訳して今日出てきた?」
「結局、あそこに居る全員になんで来ないんだよ!って問い詰められました」
「…」
「…」

どーやらコイツは人気者らしい。じゃなきゃ副団長とかやらせられたりしないか…

「つまり全員に『大事な人』と会うから今日は行けないって言ったん?」
「いえ、徹平にだけ言いました。今日会う人って誰だよ、そんな大事な人なのかー?ってしつこく聞かれたんで、すっげー大事な人って答えました。他の奴らには、人と会う用事だから行けないってだけしか言ってなかったはず」

「…OK」

そういって正座して縮こまってる彰二を優しく抱きしめた。
俺の立場もコイツのことも俺が全部守ってやる…。

「…」
「…」

俺はだいたい状況を飲み込めた。

俺は中1の時には文化祭の伴奏者はしていなかったし、ただ吹奏楽部の1年だったから、生徒会1番のイケメンでバスケ部主将の千田先輩が俺の名前を知って居るはずがない。さっき出会った時も特に目立った様子はなかった。つまり俺の個人名を伝えてる可能性は低い。

けれども千田先輩が彰二の現在地を伝えたのは、ほぼ確定でいいだろう。そうでなきゃ、この状況を説明できない。奴らは彰二がこの家にいるとわかっているから、わざわざ集団でここに来ている。

ポイントはやはり千田先輩が彼らにどう伝えて居るか?だ。
そこを正確に分かればどうにか言い訳すればなんとでもなる。全裸でしゃぶりあってる瞬間を見られた訳ではない。それに俺は男だ。普通にしてれば怪しまれまい。

逆に俺が女なら、こんな時間に2人っきりで、もうどういう言い逃れも苦しいと思うけど…
そう思うと彰二の顔が恨めしく思ってきた。
コイツ、ヤリチン顔って感じがする…。コイツが夏の夜に女の子と同じ部屋にいたとなるといかにもヤってるって感じがする。もうどうにもこうにも言い訳もできない感じだ。彰二はぶっちゃけそういう顔をしている。
彰二が女に全く縁のないようなブサイクだったとしたら、どうにか言い訳できそうなものを…
クソ…

それにしても、仮にそういう状況だったとして千田先輩は『打ち上げサボって、家にお持ち帰りしてる、今も家に居る』と彼らに正直に話しちゃうような人なのだろうか?

「多分、なんとかなる、だから正直に答えろ」
「…ハイ」
「千田先輩ってどんな性格だ、意地悪か、鈍感か?それから、兄弟仲っていいのか?」
「お兄は乱暴で凶暴です、でも外面はいいし器用だし、勘はよく働きます」
「…そっか」

確かに言われてみれば、そんな感じだった。
生徒会長はいかにも人の良さそうな、おモチみたいな顔のガリ勉顔だったけど、千田さんは生徒会の幹部で顔も立ち振る舞いもシュっとしてて、ちょっと冷たそうで学校で一番人気があった。

王者の風格というか、血も涙も無い、血の通っていないような冷たい所があって、空気も完璧に読み切ってるといった感じの人だった。ノーミス人間。もし戦国武将なら天下統一できそうな感じ。織田信長っていうか…

その点、もうコイツはダメだ。そんな背は高くないし、サッカー部の中に埋もれていて、図書委員とかやってて。

今もうろたえててテンパってるし、社交性はあるけど、かえってそこもちょっとアホっぽい。言い訳もクソ下手で、こんな状況を作っちゃってる。もし千田先輩がゲイだとしたら、こんな失態しないだろう。もっとスマートに華麗に隠し通したりするだろう。そんな気がする。はぁ。




「千田先輩は勘良さそうだし、もう色々気付いちゃってるかもな…」
「え…え…まじっすかあ」
「だってクラスメイトに嘘をついた事も、その上でお前が俺と一緒にいるってことも唯一知ってるんだぜ?先輩は」
「あ、そっか、考えてなかった…」
「…先輩が下にいる奴らに、どう伝えたか。それが問題だ」
「…ハイ」
「いいか、よく聞け」
「…ハイ」






_____3_____

俺は人差し指を立てて、完全に上からの立場でこの状況のすり抜け方を彰二に叩き込んだ。

「まず下に出て奴らに自然に応対しろ。それでこっちの状況を説明せずに、相手側の状況を探って、理解する。つまりなんでココに奴らはいるのか、どこまで話を聞いてるのか」

「うんうん」

「まーまず無いだろうけど、千田先輩と彼らは遭遇してないって場合。もう2時間も経ってるし、人と会う用事がもう済んだとアイツらが勝手に判断して、もう一回彰二を打ち上げに誘おうと来てるだけかもしれない」

「なるほど!」

「その場合、わざわざ俺と一緒にこの時間を過ごしたなんて、奴らに話す必要なんてない。
用事が済んだってことで、そのまま打ち上げの2次会に参加しろ。アイツらとお前がいなくなった頃に俺はこの部屋から抜け出すだけだ。でもセンコーとかに見つかったりしないようにな」

「OKです!」

「次だ。もし先輩が、お前が『誰か知らない男』とココにいるとだけ、伝えてた場合…。申し訳ないが先輩の勘違いってことにしろ。それか忘れ物を届けてくれた学校の人だけど、そこまで面識はない。もう帰ったって言え。

そんで、会う予定になっていた大事な人というのは、お前の親戚の伯父さんって言え。
普段は地方に住んでいて権力者で金持ち。進路と進路先の下宿のことで相談に乗ってもらってた。と言え。それで矛盾はない」

「…ユウくん、スゲー…さすが俺のユウくん…!!」
「…いいからもう(照)。でこれラスト」
「うんうん!!」

「まぁこれはほぼ有りえないパターンだけど。もし先輩が、俺の名前を知ってて個人名で浅井ユウっていう3年生と一緒にいた。競技で一緒になってた3年男子とか言ってたぞ、きっと今も一緒にいるはずだ、とまで伝えてた場合…」

「…」
「多分、質問攻めに合う」
「…」



「どんな関係だ?とか仲良くなりすぎじゃね?とか打ち上げサボるとかなんだよとか」
「…そーすね」


「今その先輩どこいったん?とか、なんで急にいなくなったん?とか…な」
「確かに…すでに田中も俺らのこと囃し立ててたし」

中学生って難しいな…って思った。
世界に俺ら2人っきりだったら…とかそういう妄想をする連中の気持ちがよーーくわかった…。
まじめんどくせー。

「…そん時は、俺のピアノ教室に入会したいってことで相談に乗ってもらってた…いや、この家電子ピアノとかねーか?キーボードでもいいんだけど。」

「…グランドピアノじゃないやつだけど、ピアノあります」
「よし!! お前は俺に憧れてる、ピアノを習いたいと思った、今日は無料個人レッスンの1回目だった、そう言え!!会いたいって質問責めにあったら全員ココに連れてこいッ!!何でも弾いてやるッ」

「わかりやーしたっ!! そう言いましょうッ!!!!浅井コンサートっすね!!」

「…ピアノのある部屋に連れてけ。俺は黙って弾いてたりしてるから。状況がわかり次第、LINEしろ」
「OKっす!!!」

俺はよくもまぁここまで、スラスラと嘘をつけるな…と自分に関心した。
あと、こういう状況だと彰二の涼しげな顔もゴチャゴチャになるんだと発見した。アイツがもしクールぶってたら皆から嫌われてただろう。実はヘタレだし。

あと彰二は明らかにモテるだなって思った。それも男女問わず。どうでもいい空気みたいな扱いをされている男だったら、今みたいな状況は絶対起こらないからな。







_____4_____

旅館の廊下をいくつか通り抜ける。遠征中の野球部やらがまだ騒いでいる。
まず下駄箱に立ち寄り、履いてきたサンダルを回収した。

「ココの部屋っス」

大正時代風の電灯で薄暗く、和ダンスやら掛け軸やら狸の置物やらが鎮座する中、アップライトピアノが存在している。年季の入った絨毯の上に静かに置かれていたけど、ピアノは特に埃をかぶってる様子もない。定期的に今でも誰かが弾いているのだろう。

「勝手口はあっちっす」

彰二の指差す方向に勝手口のドアがある。サンダルを履いて外に出るとビールケースやら仕出しのケースが積まれていた。竹やぶから笹が、しな垂れてきてて薄暗い。ここから脱出しても目立たなそうだ。

「よし…ここから出られるな…」
「ハイ、じゃあとりあえず探って来て、どういう状況かLINEします!」
「なるはやでな!」
「…俺なんかでも、弾けるようになるかな…」
「なんの話だよ知らねーよw てか別に教えてやらねーし!」
「なんだよ、ケチっ」
「早く行け!w」

俺は彰二を送り出し、カバンから楽譜を取った。今日はレッスンサボって男と密会した。俺も先生にバレたら大目玉だ。まぁ全然後悔はしてないけど。

彰二と別れて急に寂しくなった。

…ちょっと弾いてもいいかな。気持ちも紛らわしたいし。そう思い練習中の楽曲を弾く。調律されているようだ。旅館の館内も宴会?の歓声でうるさいし、旅館の外もカエルの鳴き声か虫の声か蝉の声かわからないけど、普通にうるさい。こんな時間帯に弾いても問題ないだろう。

5曲くらい通しで弾いて、指運びも乗ってきた時、LINEが入った。

「兄貴は俺が旅館にいるっていうのはやっぱ皆に言ったみたいです。でも浅井さんの事は全然言ってませんでした。皆には人と会う用事はもう済んだって言いました! 今◯◯◯[※地元のゲームセンター] に来てるんでもう出ちゃって大丈夫っす!」

俺はそのLINEを読み、ふーーーとため息をついた。やれやれ。これからは色々気をつけねーとな…にしてもすげー1日だった…
俺は安心のあまり少しあくびをした。楽譜をカバンにしまい勝手口を開き、旅館から出た。

夏風に笹の葉が揺れて心地よい音がしてる。イイ旅館だよな、ココ。繁盛するのわかるわ。
夜になって気温が落ち着いて、夜風が気持ちよかった。
徒歩で家まで帰らないといけないので距離があるが、これなら問題なさそうだ。
えーと確かこっちの方向だよな。俺は旅館の敷地を出た。

その時だった。
ガバっと背後から俺は抱きしめられた。

「わああっっっ!?」
「つかまえた…」

恐る恐る振り返ると、その正体は無表情の千田先輩だった。

←Back Home Next→